故人名義の口座が凍結される…解除するには?

1 はじめに

ご家族のどなたかが亡くなられた場合、故人名義の預貯金口座は凍結され、預貯金を引き出すことができなくなります。

故人名義の預貯金は、死亡した時から相続財産(遺産)と扱われ、遺産分割の対象となります。したがって、相続人の間で遺産分割がされていないにもかかわらず、相続人のうち誰かがこれを取得するのでは不公平が生じます。

しかしながら、故人の関係者でもある相続人としては、故人の生前の病院代の支払いに追われる、故人の葬儀代を工面する必要がある、また、相続税を納めなければならないなど、故人名義の預貯金をあてにせざるを得ないこともあります。このような場合、相続人は、何とかして故人名義の預貯金を引き出せないかと考えたくなるものです。

ここで、まず一つ思いつくのは、遺産分割協議書を作成して、故人名義の口座を解約し、預貯金の払戻しを受けるという方法です。しかし、遺産分割協議書の作成には時間がかかりますし、その前提として相続人全員の同意が不可欠でもありますので、この方法によることは現実的ではありません。相続人の一人が所在不明である、相続人同士の仲が悪いなど、相続人全員の同意が見込めない状況は容易に想定できます。

そこで、以下では、遺産分割協議書の作成を経ずに、故人名義の預貯金を比較的迅速に引き出すことができる方法についてご紹介させていただきます。下記の方法により、凍結された口座から預貯金を引き出すことができれば大変助かることは間違いないのですが、一点ご留意いただきたいこともありますので、最後までお読みいただけますと幸いです。

2 遺産分割前の払戻し(預貯金の仮払い)制度

2018年(平成30年)7月6日に成立した相続法の改正(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律)により、相続人全員の同意がなくても、相続人単独で、遺産分割協議書を作成する前に、故人名義の預貯金のうち一定額の払戻しを受けることができるようになりました。

これが「遺産分割前の払戻し制度」というものであり(新民法909条の2関連)、2019年(令和元年)7月1日に施行され、すでに運用が始まっています。遺産分割協議書の作成をしていなくても、故人名義の預貯金の払戻しが受けられるというものであり、制度を正確に理解して利用することはとても有益です。

それでは、この制度をどのように使えば、故人名義の預貯金の払戻しを受けることができるのでしょうか。その方法としては、以下の2つがあります。

(1)家庭裁判所で手続きを行う方法

個別の事情を踏まえたうえで、仮払いの必要性があると認められる場合には、他の相続人の利益を害しない限り、家庭裁判所の判断で、預貯金の全部又は一部の仮払いが認められるようになりました(新家事事件手続法200条3項により、同法200条2項の要件が緩和されています。)。

しかし、この手続きによるためには、家庭裁判所に対し遺産分割の審判又は調停の申立てをする必要があります。また、家庭裁判所が「必要性」と「他の相続人の利益を害しないか」の判断をしなければなりません。したがって、実際に預貯金の仮払いを受けるまでに相当の時間がかかることは避けられません。

そこで、より迅速な方法として、下記の方法があります。

(2)家庭裁判所の判断を経なくても手続きを行える方法

各相続人は、故人名義の預貯金のうち、口座ごとに以下の【計算式】で算出される額(ただし、一つの金融機関に対しては、150万円(法務省令で定める額)を限度とします。)までであれば、他の相続人の同意がなくても、単独で払戻しをすることができます(新民法909条の2)。

【計算式】
単独で払戻しをすることができる額
=(相続開始時の預貯金の額)×1/3×(払戻しを行う相続人の法定相続分)

具体例を一つ示します。

故人には、相続人として妻と二人の子(長男と長女)がおり、故人がA銀行に600万円、B銀行に2400万円を預金していました。このとき、長男は、単独でいくらまで預貯金の払戻しをすることができるでしょうか。

長男の法定相続分は4分の1です。したがって、長男は、以下のとおり算出される合計200万円の払戻しをすることができます。

A銀行については、600万円×1/3×1/4=50万円の払戻しを受けられます。

B銀行については、計算上は、2400万円×1/3×1/4=200万円の払戻しを受けられることになりますが、一つの金融機関に対しては150万円までしか払戻しをすることができませんので、限度額である150万円の払戻しを受けられることになります。

この方法であれば、家庭裁判所に対する申立てをせずに、金融機関に対して直接、故人名義の預貯金の払戻しを求めることができます。家庭裁判所で手続きを行う場合と比べると、払戻しを受けることができる金額が制限される場合もあると思われますが、より迅速に最低限の預貯金の払戻しを受けることができる方法として有用です(ただし、故人や相続人の戸籍謄本等の資料は必要になると考えられます。)。

なお、新民法909条の2関連の制度は、施行日(2019年(令和元年)7月1日)後に開始した相続について利用できるのはもちろんですが、施行日(2019年(令和元年)7月1日)前に開始した相続についても利用できることが注目されます(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律附則5条)。

3 おわりに

以上のとおり、相続人は、手続きを踏めば、故人の預貯金について一定の金額を引き出すことができる制度が整備されました。これにより、故人に関する支払いを心配しすぎる必要が少し減ることになると思われます。

このように便利な制度ができたのは確かなのですが、最後に一点気をつけていただきたいことがあります。それは、この制度によって払戻しを受けた預貯金については、払戻しを受けた相続人が遺産の一部の分割により取得したと見なされるということです(新民法909条の2)。すなわち、払戻しを受けた預貯金は、遺産としてすでに受け取ったと扱われ、その分だけ、その後の遺産分割の結果受け取ることができる分から差し引かれるということになります。「制度を使って取得した分は別扱い」というわけではないことに注意が必要です。

しかしながら、故人のために使おうとして払戻しを受け、実際に故人のために預貯金を使ったのに、その分だけ取得する遺産から差し引かれるというのは、納得しがたいところです。そこで、この後に行われるであろう遺産分割協議の際に、「払戻しを受けた預貯金は故人のために使った」ことが説明できることが重要です。そのために、いつ、どれくらいの額の払戻しを受けたのかを記録し、故人のために支出したことが分かる領収証などを残しておくことが求められます。故人のために使っていれば全て問題ないということにはなりませんが、これらの資料が残っているかどうかは、遺産分割協議の進行に大きく影響すると思われます。

預貯金の仮払いを受けられたとしても、これで遺産分割が終わったことにはなりません。払戻しを受けた預貯金をめぐって、遺産分割協議が難航することも考えられます。遺産分割協議を含めた相続問題全体にわたって、弁護士のサポートが必要になることも少なくないと思われます。

当事務所には、相続、遺産分割に精通した弁護士が複数在籍しております。相続、遺産分割でお困りのことがありましたら、ぜひ一度ご相談いただきたいと思います。


民法

(遺産の分割前における預貯金債権の行使)
第909条の2

各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。


家事事件手続法

(遺産の分割の審判事件を本案とする保全処分)
第200条
第2項

家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときは、当該申立てをした者又は相手方の申立てにより、遺産の分割の審判を本案とする仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。

第3項

前項に規定するもののほか、家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権(民法第四百六十六条の五第一項に規定する預貯金債権をいう。以下この項において同じ。)を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるときは、その申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる。ただし、他の共同相続人の利益を害するときは、この限りでない。


民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年7月13日法律第72号)
附則

(遺産の分割前における預貯金債権の行使に関する経過措置)
第5条
第1項

新民法第九百九条の二の規定は、施行日前に開始した相続に関し、施行日以後に預貯金債権が行使されるときにも、適用する。

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