親が認知症に…相続前に活用したい成年後見制度とは

1 はじめに

例えば、父と母がいて、子どももいる場合に、父が亡くなったとします。父が残した財産(遺産)があれば、これを相続人の間で分割することが必要になります。これがいわゆる「遺産分割」ですが、相続人全員で話し合いを行い、協議がまとまれば、遺産分割協議書を作成し、これを使って財産の換価や名義変更を行うことになります。このように、父が残した遺産を分割するためには、相続人全員での話し合いと合意が必要です。

それでは、父が亡くなった時点で、母が認知症と診断されていた場合はどうでしょうか。父が亡くなった場合、その妻である母は相続人となりますが、この母が認知症と診断されていると困った事態が生じます。というのも、遺産分割協議とは法律行為と呼ばれるものであり、これを行うには意思能力というものが必要となります。意思能力とは、自分の行為の結果を正しく認識し、これに基づいて正しく意思決定することができる能力をいいますが、この意思能力があるか否かは、行うことになる行為(遺産分割協議など)の難易度や重大性などの個別の事情によって異なります。そうしますと、仮に、認知症である母が、形の上では遺産分割協議に加わった結果として、遺産分割の話し合いがまとまり、これに基づき遺産分割協議書が作成されたとしても、後々、この遺産分割協議書作成時に、母に意思能力がなかったということになれば、一旦は成立したように見えていた遺産分割協議が無効となります。上述のとおり、意思能力の有無については、遺産分割協議の内容など個別の事情によって判断が分かれるものですので、「今の母の状態で、この遺産分割を行った場合に、母の意思能力がなかったとして、後から遺産分割が否定される」かそうでないかを明確にすることは困難であるといえます。しかし、これでは、相続人の中に意思能力があるか疑問を差し挟まざるを得ない人が一人でもいるだけで、遺産分割協議を行うことができなくなる恐れがあります。

そこで、このような不安定かつ不明確な事態を招かないためにできることとして、「成年後見制度」というものがあります。相続人の中に、意思能力の有無に不安がある人がいる場合でも、有効な遺産分割協議を成立させるのに役立つものですので、以下では、主にこの「成年後見制度」についてご説明いたします。

2 成年後見制度とは

成年後見制度とは、認知症などを理由に判断能力が不十分な人を家庭裁判所の審判により成年被後見人とし、成年後見人を付して、その判断能力が不十分な人(成年被後見人)を保護し、支援するというものです。成年後見人は、本人(成年被後見人)の利益を考慮し、本人を代理して遺産分割協議を含む様々な法律行為を行い、本人の権利を保護します。

なお、成年後見制度は、いわゆる法定後見制度と呼ばれる制度の一つです。法定後見制度の中には、成年後見の他に、判断能力の程度など本人の状況に応じて、保佐、補助という制度があります。また、法定後見制度とは別のものとして、任意後見制度というものがありますが、これは、本人の判断能力が十分なうちに、将来判断能力が不十分になったときに備えて、あらかじめ任意後見人になる予定の人に対し法律行為の代理権を与えるなどの内容で任意後見契約を締結しておくというものです。任意後見制度は、法定後見制度と異なり、本人の判断能力が十分な段階で行動を起こすという点が特徴です。

3 遺産分割と成年後見制度

遺産分割協議をするに際して、相続人のうち一部の人に成年後見人が付されている場合には、原則として、成年後見人が本人を代理して遺産分割協議を行うことになります(万が一、本人が単独で遺産分割協議をしてしまった場合には、成年後見人はこれを取り消すことができます。)。他方で、相続人の中に判断能力が不十分ではないかと疑われる人がいるにもかかわらず、その人も含めて誰にも成年後見人が付されていない場合には、すべての相続人が遺産分割協議をすることができる(くらいの意思能力を有している)かを考えることが求められます。認知症の疑いがあるなど、遺産分割協議をするだけの意思能力があるか不明確な人がいる場合に、後に遺産分割協議の効力が否定されるリスクを承知のうえで遺産分割協議を半ば強引に進めてしまうことも考え得るところですが、それは、認知症の疑いのある人にとっても、またその他の相続人にとっても決して望ましいことではありません。したがって、このような場合には、遺産分割協議を始めるにあたって、判断能力が不十分な人に成年後見人を付すための裁判所の手続きが必要となりますので、遺産分割協議がなかなか進められない(そもそも始められない)ということにもなりかねません。

以上のことから、将来発生する可能性のある遺産分割を有効かつスムーズに進めるために、認知症の疑いがある人については成年後見人を付しておくことが重要です。成年後見人は、本人を代理して遺産分割協議を行うことになりますが、その際、本人の法定相続分に配慮しつつ、妥当な遺産分割協議を行わなければなりませんので、成年後見人に遺産分割協議を代理して行ってもらうことに特段の不都合は生じないと考えられます。

4 その他の認知症対策

将来の遺産分割に備えて認知症の人に成年後見人を付する他に、将来遺産分割協議ができない可能性への対処法として、遺言を活用するということが考えられます。母が認知症と診断されている中で、父が亡くなった場合の遺産分割協議に備えるものとして、父があらかじめ遺言を作成しておくというものです。遺言があれば、遺産分割協議を経ることなく遺言者たる父の意思をそのまま反映させることが可能となります(ただし、遺留分という、遺言によっても排除しきれない相続人の権利が存在することには留意する必要があります。)。

5 終わりに

特に遺言が作成されておらず、亡くなった方の遺産について遺産分割を行う必要がある場合に、遺産分割協議を有効に行うためには、認知症などを理由に判断能力が不十分な相続人には成年後見人を付すことが求められます。成年後見人を選任してもらうためには、家庭裁判所に対し、申立書等を作成して提出する必要がありますが、添付しなければならない書類はたくさんあります。そこで、成年後見人を付すにあたっては、裁判所に対する申立てを弁護士に委ねるということも検討されるべきです。また、生前の認知症対策として、正確な遺言を作成しておくということも、遺産分割協議ができなくなることを防ぐための方法の一つとして有用であり、弁護士がお力添えをしたうえで、遺言者の意思を反映させた遺言を作成することのサポートができると考えます。

年齢を重ね、認知症などの症状が発生するという状況は、誰にでも起こりうることです。ご家族やお知り合いの中に、認知症の疑いのある人がいる、将来の相続や遺産分割について不安なことや疑問点があるという方におかれましては、当事務所まで一度ご相談にお越しいただければと思います。

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